91 / 216

第四章・19

 どく、ん、と下腹が波打ち、ギルとルキアノスは二人同時に昇り詰めていった。  寄せては返す波のように、何度でも昇り詰め、吐き出した。 「ッあ! あッ、はぁ、はぁ、あぁッ! あぁッ! あぁあああ!」 「もっと、あぁ、ギル。あ、ぅあ、あ! はぁ、あぁ、うあぁあ!」  互いの体を掻きむしり、皮膚を裂き、血を流しながら激しく深く愛し合った。  交わったまま放心し、気づいた時には汗と涙、唾液に精液、そして血液と、ありとあらゆる体液にまみれた体でふたり床に転がっていた。  ギルはテレポーテーションを使って、自室へ戻っていた。  有事の際以外は、極力使用してはいけないと禁じられてはいたが、この姿では致し方ない。  どろどろの体で、びりびりの服を纏って。    こんな格好で、ルキアノスと事後の始末をしたくはなかった。  思考も飛んで、どこかふわふわと上ずっていたので尚のこと独りになりたかった。  そのままシャワーを浴び、裂けたシャツや汚れた服はポリ袋へ入れてダストシュートへ放り込んだ。  ようやく人心地着いた時には、すでに夜明け間近。  静かな音楽でも聴いて、心を落ち着かせながら少しでも眠ろうとバスローブを引っかけたまま寝室へ入り、照明のパネルに併設しているオーディオをクラシックモードにした。  寝室が薄明るくなるとともに柔らかな音色が響いてきたが、奥のベッドに眼をやると心臓が止まりそうなほど驚いた。  人が腰かけている。  誰だ。  いや、それは誰だというより、知り過ぎている人物。  自分だった。  私自身が、なぜ眼の前に。  鏡でもなく、ホログラフィでもない。  それを証拠に、こちらに気づいたギルに対して、ぎこちなく手を挙げ立ち上がっている。  ドッペルゲンガーか、とさえ思った。  ドッペルゲンガーとは、自分自身の生き写しである。そして彼に出会ってしまうと近い将来命を落とす、との言い伝えがある。

ともだちにシェアしよう!