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第四章・20

 どうすることもできずに立ちつくしているギルに、彼は声をかけてきた。  発する声は自分と少し違っていたので、心持ちがわずかに軽くなった。  しかし、普段聞いている自分自身の声は、声帯から発生された音が頭蓋骨を伝わり、そこから鼓膜へ伝わってくる骨動音だ。  おそらくは、その声紋すら同じだろうと、シャワーを浴びてさっぱりしたばかりなのにギルは冷たい汗をひどくかいていた。    そして、彼はこう伝えてきたのだ。 「私の名は、ギル´(ダッシュ)。君の双子の弟だ」  弟?   私に、双子の弟が!?  混乱しかけた頭に、法皇から明かされた神騎士たちのクローンの存在が閃いた。  もしや奴は、そこからやってきた、と?  何のために?  まさか、これも法皇様が私を試しておられるという事なのか!? 「……ギルα、 ではなく、ギル´、と名乗る訳は?」 「だから先程から言っているだろう。私はお前の、血を分けた一卵性の双子の弟。人工生命ではないのだ」  しかし、今のままでは。  ギル´のままでは、自我を持つ事ができない、と彼はギルに訴えてきた。 「名を。私に、私自身の名前を付けて欲しい。そうすれば私は、ギルという神騎士の代替品ではなくなることができる」  悪い夢を見ているようだ、とギルは思った。  いや、先程ルキアノスと共に狂ったひとときも、全て夢ではなかろうか。  私はまだ、あの生体技術部の深淵で白昼夢を見続けているのではないのだろうか。  重い沈黙が続く。  ギルでありギルでない彼は、じっとこちらを凝視したままだ。  私のパジャマを身に付けた姿で、裸足でその場にたたずむだけだ。  

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