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第五章 弟
珍しく、ルキアノスは憂鬱な朝を迎えていた。
ベッドから半身だけ起こした状態で、ぼんやりと。
ただぼんやりと、時間を浪費した。
昨晩の、ギルとの情事で体がだるいというせいもあるが、体よりもっとだるいのは精神の方なのだとは、自分でも解かっていた。
起きだして、シャワーを浴びて、服を着て、朝食を用意して。
頭の中で、今からやるべき事を考える。そして、心に指令を出す。
いつまで、そうやっているつもりだ?
早く起きて、支度をしろ。
何も難しいことじゃない。簡単な手順だろう。
そう。
起きて、出勤する。
支度するうちに、目覚めるだろう。
聖地のメインセンターへ着く頃には、サッパリしているだろう。
そして俺は、いつものとおり神騎士のルキアノスとして人と接し、朗らかに振舞うだろう。
「……ギルに、会いたい」
ぽつりと、唇だけ動かした。
微動だにせず、口先だけを動かして。
動いたのは口先だけだが、全身全霊の欲求をつぶやいた。
昨夜は遅くまで一緒だったのに、身を剥き出して愛し合ったのに、朝にギルの姿は隣にない。
これまでも、そうだった。
いくら深夜遅くとも、もう夜明け寸前でも、ギルはルキアノスと共に朝を迎えたことがない。
必ず、自室へ帰る。
そして、何事もなかったかのように、職場で再び顔を合わせるのだ。
身を剥き出して愛し合っても、心までは許してくれないのか。
そんな風に、ルキアノスは考えるようになっていた。
昨晩の俺は、非道かった。
体どころか心まで剥き出して、すっかり晒してギルに甘えた。
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