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第五章・3

 そこまで考え、は、と息を呑んだ。  ギルは?  ギルをも、代替品と交換できるか? この俺は。  昨夜は、影武者の存在を知った事で取り乱し、ひどくギルを、そして自らを苛めた。  体を傷つけ、その痛みで、苦しさで己の存在を確かめた。  今の俺には無理でも、法皇となった俺なら出来るようになるのだろうか。  憂鬱な朝を迎え、ただぼんやりと時間を浪費していたはずが、いつの間にか気味の悪い自問自答に夢中になっている。  思い切って、ベッドから起きだした。  バスルームへ向かい、いつもよりやや熱い湯でシャワーを使った。  熱い湯で、全てを洗い流した。  不安も不吉も、傲慢も。  俺が法皇になるとは、限らないじゃないか!  ギルが法皇となる可能性も、充分あり得るのだ。  それを、もうすでに自分が聖職を手にしたかのような仮定で、不健全な妄想に耽るとは。  乱暴に髪を掻きまわして洗った。  顔を上げ、熱湯を浴びた。  忘れてはならぬ事だろう、あの機密は。  だが、今すぐにどうこう考えることじゃあない。  そうきっぱりと心を遮断して、震撼した事実を封じた。  シャワーを浴び、服を着て、朝食の準備をした。  そしてやはり、聖地のメインセンターへ着く頃にはサッパリしていた。  いつものとおり神騎士のルキアノスとして人と接し、朗らかに振舞った。  だが、会いたかったギルには会えなかった。  彼は珍しく、欠勤していた。

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