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第五章・4
ギルは床の中にいた。
隣には、自分が横になっている。
眼はすでに覚め、ぱっちりと開けているくせに起き出そうとはせず、ただこちらをじっと見ている。
「いつまでそうしているつもりだ?」
ギルは、隣のもうひとりの自分に声をかけた。
悪びれもせず、素直な返事が戻ってきた。
「ギルが起きるまで」
もうひとりの自分。
もうひとりの私。
私の双子の弟と名乗る、この男。
ジーグと名付けたその弟は、当たり前のように隣に横になっている。
ルキアノスとは、一度もこうやって朝を迎えた事はないのに。
それは、最後の砦だった。
ギルが、ルキアノスに心の底まで参ってしまわないための、堤防だった。
ルキアノスが与えてくる愛情は、想像をはるかに超えていた。
その心地よさに溺れ、自分を見失ってしまいそう。
体に、心に刷り込まれる愛欲は濃厚で、しかも深かった。
昨夜もそうだ。
身も心も投げ出して愛を叩きつけてくるルキアノスに応え、散々乱れた。
聖人君子のルキアノス様が、ここまで醜い本心をさらける人間は、この私だけ。
そんな優越感すら覚えて、ぞっとした。
依存症。
私は半ば、ルキアノス依存症になりかけている。
それを振り切って帰ってきた自室には、生き別れになっていた双子の弟が待っていた。
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