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第五章・7

 朝食を終え、紅茶をゆっくり飲みながらも、それを心から楽しむ事ができないギルだった。  いつもなら、食後の紅茶はじっくり味わい、のんびり楽しむはず。  それができないのは、同席しているジーグのせい。  そして、この完璧にギルの好みを把握した食事を用意したのも、ジーグだった。  冷たい野菜ジュースに、人肌に温めたミルク。  パンは表面だけ焼き色を付けて、中はふんわりと。  卵は固すぎず柔らかすぎない半熟で、ベーコンはカリカリに焼かずに脂を残してジューシーに。  そして最後に、紅茶を淹れる。  茶葉は気分次第で毎日変わるが、ジーグはギルが飲みたいと思っていたアッサムを尋ねもせずに準備していた。 「私の好みをよく知ってるな」  紅茶の湯気に絡ませながら、物憂げにつぶやいたギルの言葉に、ジーグもまた視線を合わせる事もなく答えた。 「双子の兄弟だからな」  そう言いながらも、ジーグは紅茶ではなくコーヒーを淹れて飲んでいる。  しかも、滅多にコーヒーを飲む事のないギルが、チェストの奥に潜らせておいた豆を難なく見つけ出して、だ。  それに、とジーグは言葉を繋ぐ。 「俺だって、今までただ寝ていたわけじゃあない。ギルの記憶なら、このとおり全てインプット済みだ」  とんとん、と指先でこめかみを叩いてみせるジーグ。  法皇の説明では確かに、脳に極小のチップを移植してギルが見聞きした主な出来事は全てジーグを始め、クローンに伝達されるようになっている。  だから、ギルの好みの食事を作るのだって簡単だ、と笑うジーグは唐突に、真顔になって愉快な事を訊いてくる。 「そういえば、ギル、と呼んでもいいのかな。兄さん、と呼んでほしいとか、リクエストはないか?」 「何を今さら。それに、私の考えは全部お見通しのはずだろう? この頭の中のナノチップのおかげで」  ジーグを真似て、ギルも指でこめかみをつついて見せた。  だがジーグは、にこりともせずに返してきた。

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