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第五章・8

「俺はもう、ギル´じゃない。ジーグという名を得た以上、一個人になったんだ。もう、ギルの情報を受け取ることはできない」  ただ、地下で眠る他のギルα や、ギルβたちは、今もお前の身に起きたことを受け取り続けているだろうがね、と弟は言う。 「ギルがジーグという双子の弟と、こうして朝食を共にしている記憶も、彼らに書き込まれ続けているよ」  ほんの昨日まで、自分がそうであったことなどすっかり棚に上げている。  そんなジーグは、自分の代替品として育成されてきたにしては、あまりにもギルらしくないのでは、とこの神騎士は違和感を覚え始めていた。 「私の影武者のはずなのに、やけに私らしくない口のきき方をするな。それに、なぜ紅茶ではなくコーヒーを?」  私なら、ギルならば食後には紅茶を欲しくなるはず、と静かに。  だが強い疑問をもって、ジーグに叩き付けた。  それでもジーグは、やはりギルらしくない口調でギルらしくない答えを返してくるのだ。 「言ったろ? 俺はギルのクローンじゃなくって、双子の弟だと。双子とはいえ別個体だし、育った環境も違う。性格が多少ズレるのは、当たり前さ」  そして俺は、一度死んでいるからね、とコーヒーを一口飲んで、ジーグはギルを正面から見据えた。 「死産で生まれた俺は、聖地のメインセンターで蘇生された。でも、そのほんのわずかな死の間に、お互いの脳には何か決定的な違いができたんだよ、きっと」  なるほど、とギルは思った。  私と彼とは、まったくの別人。  しかしこの双子の弟は、これまで私が歩んできた人生の記憶を全て知っている。  私が見て、聞いて、感じた事を、その指ひとつ動かさぬまま全て経験しているというのだ。

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