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第五章・9

 しかしジーグは、そんなギルの考えを覆すような望みを乞うてきた。 「なぁ、ギル。今日は一日中ヒマだろう? 一緒に出かけないか。いいだろ?」  自分の目で、耳で、肌で、外の空気を味わいたいんだ、とジーグは言う。 「そんなもの、私の記憶からインプット済みだろう?」 「そうだけど。でも、脳の微細な電流でだけでなくって、全身で感じてみたいんだ」 「なぜ、私も一緒に?」 「そりゃあ、実の兄と感動の対面をしたんだ。一緒に連れ立っていたい、と思うじゃあないか。違うか?」  にこにこと、隙だらけの笑顔を見せるジーグ。  その表情に、ギルは彼に対する情を、また少し深めた。  実の兄、か。 「では、実の弟と共に出かけるとするか。ただし、変装はしてくれよ。双子の存在を、衆人に知られるのはまずい」 「承知してるさ」  それを最後にコーヒーを飲み終え、ジーグは食器の片付けを始めた。  巧くいった。  これでギルは、俺を今すぐ消そうとは考えるまい。  そして二人の時間を楽しく過ごし、俺への情を深くする。  俺を愛するように仕向ける。その手で始末などできない、と思うほどに絆を深くする。  殺されてたまるか。  せっかく、ようやく、陽の光を浴びたのだ。そう簡単にこの人生、終わらせてなるものか。    鼻歌を歌いながら食器を下げるジーグが、そんな思いを抱いていることも知らず、ギルは弟の背中を見ながら残りの紅茶を干した。

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