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第五章・10
まさか出かけることになろうとは。
しかも、双子の弟と連れだって。
ギルは、隣のジーグをちらりと見た。
髪は束ねて帽子に隠し、カラーの入ったグラスを掛けている。
さすがにマスクまではしなかったが、この並んで歩く二人が同じ顔をしている、とは一見解からないようにジーグは上手に変装していた。
共同宿舎を出て、歩いて繁華街まで向かった。
晴れてはいるが、多少雲がある。
日が陰ると、ジーグは目を丸くしてギルに報告した。
「日の光の圧は、結構大きいんだな。雲に隠れたくらいで、肌が受ける熱量がかなり下がる」
「そんな時は、少し肌寒くなったな、と簡単に言えばいい」
「ああ、そうか。だけど、ギルの感じた刺激を受け取るのと、実体験するのではかなり違うな。日陰のデータなどすでに入力済みのはずなのに、やたら新鮮に感じるよ」
そんな風に、日が陰っては驚き、鳥が羽ばたいては喜び、人とすれ違っては感激する。
まるで子どものようにはしゃぐジーグを、ギルはいつしか微笑ましく思うようになっていた。
「お昼は、ギルの馴染みのカフェで摂りたいな。そして、アボカドとエビのパスタを食べてみたい」
「そんな事まで知ってるのか。私があの店で、いつもオーダーするパスタまで!?」
ギルに関して知らない事はない、と胸を張りながらも、ジーグはやや目を伏せた。
「ただ、俺がジーグになってからの、お前の気持ちは解からない。お前がどんな風に俺を思っているかは、解からなくなってしまった」
そうか、とギルは改めて思い出していた。
『俺はもう、ギル´ じゃない。ジーグという名を得た以上、一個人になったんだ。もう、ギルの情報を受け取ることはできない』
確か、そんな事を言ってたっけ。
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