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第五章・13

 来客を知らせる音声が流れ、ルキアノスは雑記帳から目を離した。  モニターで確認すると、何とそこにはギルが立っている。  一も二もなくドアを開け、一日寂しい思いをしていたこの神騎士の男は喜んでギルを室内へ迎え入れた。 「どうしたんだ、欠勤だなんて。心配したぞ」 「ああ、すまない。さすがに気分が悪くてな。一日、心を落ち着かせたかったんだ」  なぜ気分が悪いかは、ギルと同じものを見せられたルキアノスにも容易に想像がついた。  ただ、それが原因で一日動けなくなるとは。  ルキアノスは改めてギルの繊細さを感じた。  しかし、繊細と言えば聞こえがいいが、もう一歩踏み込めば脆いとも言える。 「そんな事では、法皇になれないぞ」  冗談半分にでも、思ったことは口に出す。それがルキアノスだ。  ただ、あとの半分は本気なのだ。  ギルのふりをしてルキアノスを訪ねたジーグは、その性格を実際に肌で感じ取った。 「正直、俺も落ち込んだよ。でも、あの御方は。法皇様は、耐えて乗り越えていらっしゃる。あの強靭な精神は、見習わなきゃいけないなぁ」 「確かにな」  でもこうして俺を訪ねてくれるのは嬉しい、とルキアノスは、ギルと思い込んでいるジーグをもてなす支度をしている。 「気晴らしにと思って、いい映画をダウンロードしてたんだ。これから一緒に……」 「すまないが、シャワーを借りてもいいか? 急いで来たから、汗をかいたんだ」  は、とルキアノスの手が一瞬止まった。  その後、もちろんいいよ、と笑顔を返してきた。 (これから何をしようかというその時に、爽やかな笑顔なんか見せるとはな)  内心ジーグは、ルキアノスを嘲笑っていた。  シャワーを使う、というギルの言葉は、その後寝よう、の合図だ。  それを承知で、ジーグはバスルームへ入った。  俺がこうして湯を浴びる間に、奴はいそいそと寝室を整えているに違いない。  

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