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第五章・17
見る見るうちに引いていく、体の、心の熱。
ギルの情事を追体験した今、その好奇心もルキアノスへの興味もすでに失せていた。
「すまない、今夜はこれで帰る」
「え、もう? まだいいじゃないか。それに、シャワーも浴びないと」
「帰りたいんだ、今すぐ」
無理やりにルキアノスを押しのけ、ジーグはベッドから逃げ出した。
「待てよ」
やけにしつこいルキアノスだ。腕を掴んで、引き戻そうとしてくる。
「今夜は。今夜は泊ってくれないか。一緒に朝を迎えたい。いいだろ?」
ジーグは無理にその手を振り払い、脱いだ服を抱えて袖も通さず、そのままテレポーテーションでギルの住む共同宿舎へと飛んだ。
ギルとしてルキアノスに会いに行ったが、ギルらしくない事をしてしまったな。
そんな不始末を感じたが、それでも一刻も早くあの男から離れたかったのだ。
そして、愛するギルのもとへと帰りたかったのだ。
今、戻った。と、突然室内に聞こえたジーグの声はギルを驚かせたし、またその格好も仰天させた。
「どうした、ジーグ。そのなりは!」
「……ルキアノスと、寝てきた」
一瞬、目を見張ったギルだったが、すぐに眉根を寄せ密やかに囁いた。
「馬鹿な事を」
「ああ。確かに俺がバカだった」
そんなジーグに、ギルはそっと腕を伸ばした。
そこまでして、私を、ルキアノスを。
私とルキアノスの関係を知りたかったのか。ジーグ。
ギルの腕は、そう語っているようだった。
その腕に、ジーグはすがりついた。
食いしばった歯をこじ開け、呻き声が漏れる。大粒の涙が、ひとつだけ落ちた。
「ギル……。俺を、清めてくれ」
返事はなかったが、ギルは黙ってジーグを腕にすがらせたまま寝室へ向かった。
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