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第六章・12

 聖地内で、最も聖なる場所・ファタル神殿。  最も聖なる地として選ばれた場所だけあって、その地盤は強固で揺るぎなく、また風、雨、塩、酸などの影響を受けにくい土地だった。  気温や湿度まで、完璧にコントロール可能な設備も備わっている。  他にも100年単位で維持を続けるために動かす様々な機材や、快適に生活できるためのライフラインも全て整っている。  ファタル神殿のためだけの発電所まで設けられた、聖なる場所。  そこには、そのファタル御自身をお出迎えする準備を整える極秘機関が存在していた。  今宵、ファタルが御降臨あそばされる。  いつも通りの業務をこなしていた職員や科学技術者、神職に就く者たちは、珍しく突然現れた法皇の言葉に仰天していた。 「しかし、御母体は本日も変わりありません」 「溶液のpH、異状なし」 「硫化水素ガスのバブリング状況、問題なし」 「コアセルベート量、正常値」  彼らが24時間体制で常に監視し、守り続けているものは、ファタルの肉体を創るための培養槽だった。  幾重にも重層化された特殊硬質ガラスカプセル内部は、生命を人工的に生み出すための溶液で満たされている。 『御母体』と呼ばれるそのカプセル内には、複雑な細胞を創り出す元となるコアセルベートが封入され、カプセル内の温度や気圧、溶液の水温や水圧がランダムに変えられる。  そして生命の素となるべく創られた物質に、常に刺激を与えているのだ。  さらに、1から創られた完全な真核生物の染色体を持つ酵母を配合している。  DNAコードを5万回以上書き換えても生き延びた、極めて丈夫な合成染色体だ。

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