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第六章・14
「ん? どうした?」
「途中で切れたな。火球による電波障害か?」
しかしその後、一斉に照明をはじめとする全機械類の電源が落ちた。
「どうした! 何があったんだ!?」
「おかしい。非常電源装置が働かないぞ」
「バックアップシステムも、作動しません!」
「おい、御母体は!」
「ダメです! 外部入力は全て遮断され、恒常性が維持できません!」
上へ下への大騒ぎの人間たちの中、法皇だけは動じていなかった。
そして一言、発した。
「うろたえるな!」
今はただ、女神ファタルの御降臨をしかと目に焼き付けよ。そして、心からの忠誠を誓うのだ。
鶴の一声に騒乱は収まり、人々は暗闇の室内に信じられない光景を見た。
御母体、とは呼ばれるものの、無機質なただの容器である。
それを動かし維持する電力が全て通じないとなると、沈黙して決して動かないはず。
だがしかし。
「まさか」
「発光している……」
硬質ガラスでできたカプセルの内部中央が、柔らかな白金の光を放っている。
そして、その光に呼び寄せられるように、溶液内のコアセルベートや酵母が集まってゆく。
複数の有機体が、ひとつにまとまってゆく。
声を失い、静まり返った人々。
沈黙の中、法皇のつぶやきだけが響いた。
「ファタルよ。どうぞ御慈悲を」
その意味がわかる人間など、いるはずもなかった。
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