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第六章・16
はっはッ、と。
細かく速く口で呼吸するギルには、答える余裕などありはしない。
生温かい精液に満ちたゴムの上から、ルキアノスがもう一度軽く指先で触れてくれた。
ぐったりと力の抜けたギルから丁寧にスキンを外し、口を縛ってふと考えた。
さすがにホテルのベッドを汚すことは憚られたので、ゴムを使ったが。
「ギル。これ、どうしよう。持って帰る?」
「……馬鹿ッ」
しかしコレをホテルのゴミ箱に残して帰ると、いかにも『昨夜、ヤりました!』と清掃業者に宣言しているようで恥ずかしい、とルキアノスは言う。
何てこの場にそぐわない事を。
絶頂に達して余韻に浸っているギルには、その生々しい現実がやるせない。
ぷいっ、と顔を逸らして丸くなってしまうと、ルキアノスは喉で笑いながら這い寄ってきた。
「おいおい、本気で怒らないでくれよ」
おいおい、とはこちらが言いたいセリフだ、とギルは掛布を被ってしまった。
冗談だった、って? 全く冗談も時と場合を考えてくれ!
そう言葉に出さない代わりに、掛布を被ったギルだったが、ルキアノスは笑いながらそれをさっさと剥ぎ取り、何度も顔にキスをした。
そんなギルの意地の張り方が、たまらなく愛おしかった。
「ごめん。もう、馬鹿なこと言わないから」
そう、素直に謝った。
キスをしながら、今夜はこれでお終いかな、と考えた。
ギルを怒らせると、怖い。
こじれると、今夜どころかしばらく抱かせてくれないのだ。
(やれやれ。俺の方は、お預けだな)
ま、いいか。
ギルは満足したんだし、俺も結構興奮したし。
何より愛情が確かめられたことが、嬉しい。
そんな風に考えていると、ギルがルキアノスの下でもぞりと動いた。
顔は背けたまま、ベッドサイドをしきりに手で探っている。
もしかして、と箱からスキンを取り出してギルの手に渡してみると、その腕は今度はルキアノスの体の中心をまさぐり始めた。
「え? いいの?」
「……これでは、不公平だろう?」
不機嫌そうな口調だが、声色には、その焦ってもつれる指先には、確かな欲情を感じる。
ルキアノスはギルの手を取り、自分のものにゴムを着ける手伝いをした。
(やっぱり今日は、記念日になりそうだな)
そんな喜びを感じながら、ルキアノスはギルにその身をゆだねていった。
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