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第六章・20
「嘘だろ~」
まだ夜明け前の薄暗い中、ふと目覚めたルキアノスは隣に眠っているであろうギルの姿をまず探した。
が、いない。
ギルが、いない。
汗と体液で汚れていたルキアノスの体は綺麗に拭き清められ、その名残のウェットティッシュがいくつか丸められて屑籠に入っていた。
ついでに使用済みのスキンも、中の見えない白いエチケット袋にまとめられ捨ててあった。
「あぁ、もう。ホントに、嘘だろ……」
あんなに愛し合ったのに。
心も一つに溶け合ったと思ったのに。
ようやく、身も心も俺に許してくれたと思っていたのに。
念のため起き出して、他の部屋やバスルームも探してみたが、やはりギルの姿は消えていた。
そしてベッドには、自分の体温しか残っていない。
かなり早い段階で、俺から去って行ったに違いない。
大きなため息を、ついた。
何か、理由があるんだろうか。
俺、何かマズイ事やった?
どさり、とベッドに身を投げ出して眼を閉じた。
仕方がない。帰ってしまったものは、仕方がない。
「忘れよう」
ギルと朝が迎えられずに残念だった、というこの悲しさは忘れよう。
そしてもう一度目覚めた時は、ああ昨夜のギルは素敵だった、と考えるようにしよう。
「しかし、独り寝は淋しいもんだな」
自分にそう捨て台詞を吐き捨て、ルキアノスは再び寝入った。
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