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第七章・3
メールを送った後、思いきって起き出した。
てきぱきと外出の支度を整え、最後に鏡で自分の姿を確認した。
ギルが被りそうもない、くたびれた帽子。
ギルは選びそうにない、ポップな伊達眼鏡。
ギルなら試着すらしそうにない、カジュアルな服装。
完璧な変装だ。
これなら、まさかギルの顔がうろうろしているとは気づかれまい。
彼が午後の業務をさぼって、マーケットへ買い出しに来ていた、などと間違われることはあるまい。
外へ出る時は、いつもこうだ。
「フッ」
鼻で、笑った。
いるのに、いない。
それが、俺。
それが、このジーグ。
「ハンバーグ、ハンバーグ、っと」
軽やかな声で自分の背中を押して、ジーグは表へ出た。
『ハンバーグの挽肉をこねてた』なんて、真っ赤な嘘をついてしまったのだ。
万が一、ギルが本当に外食せずに帰ってきたら、困るだろう?
そんな風に、自分にかすかな希望を持たせて。
でないと、もう何もかもがどうでもよくなりそうで。
一日中、ごろ寝して過ごさないためにも、ジーグは食材を買いに出かけて行った。
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