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第七章・4
「形を作り、ラップをして、冷蔵庫で30分寝かせます」
わざわざ、そう口に出しながら、ジーグはハンバーグを作っていた。
そもそも、なぜハンバーグにしよう、と思ったのか。
ハンバーグの作り方は、知らなかったからだ。
つまり、ギルの代替品として深い地下室で眠らされている間に、ギルの既存の記憶として脳に書き込まれなかったから。
ギルは、ハンバーグの作り方を知らないし、作ったこともない。
だから、ジーグはハンバーグを作ってみようと考えた。
他でもない、ジーグだけが知っている記憶を、更新したかった。
「寝かせる間に、ソースを作るかな」
飲みかけの缶ビールを一息に干し、フリーザーでキンキンに冷やした新しい缶を出す。
プルタブを開けて一口飲み、大きく伸びをした。
ソースを作る、と言いながらも、こうしてビールを飲んだり伸びをしてみたり。
読みかけの週刊誌をぱらぱらめくったり、ソファに横になってみたり。
こんな具合に、ゆっくりゆっくり作っていた。
ハンバーグならタネのままでも焼いてしまっても、冷凍保存がきく。
それでも、できれば焼きたての一番おいしい状態で、ギルの前に出したかった。
もっと言えば、こしらえている最中に帰って来た彼と、言葉を交わしてみたかった。
「ケチャップ 50cc、ウスターソース 50cc、 酒……は、ワインにするか。お好みで醤油を加える? どうしようかな」
しかし、刻々と時は過ぎてゆく。
ハンバーグは出来てしまった。
皿に盛り、付け合せの野菜も準備し、サラダもスープも出来てしまった。
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