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第七章・6

 流れ星が消える前に願いをかけると、その望みがかなうとか。  そんな迷信が、あったっけ。  だが、ジーグが見る今夜の流星は、願い事を唱える余裕も無いように次々に流れては消えてゆくのだ。 「5,6,789,10,11,12,13,14,15……」  まるで、降るように現れては消えていく。  ジーグは、無意識にその星の数をカウントしていた。 「双子座流星群なら条件が整えば、1時間あたりの流星数が100個近くになるとはいうけど」  それでも、こう矢継ぎ早に流れはすまい。 「……88。……終わりか? あ、いや。89,90」  全部で90。  もう少し頑張れば100個いけたのにな、など考えていると、突然眩しく輝く火球がジーグの眼に飛び込んできた。 「こいつは凄い。流れ星の親玉だ」  火球は、ゆっくりと夜空を横切る。  ギルも、どこかでこれを見ているだろうか。  そして光が地に隠れた瞬間、遠くに見える夜景の明かりが全て消えた。 「停電? 火球のせいか?」  部屋には明かりも灯さず、ぼんやりとギルの帰りを待っていたジーグ。  すでに夜目になっていたので不自由はなかったが、夜景の中にひときわ輝く聖地メインセンターのタワーまで真っ暗になってしまったことには驚いた。  非常電源が、すぐに入るはずなのに。  だが、ジーグはその先を考える自由を失った。 「……うッ」  ひどい耳鳴りに襲われたのだ。  耳ではなく、脳に直接響いてくるような、胸をかきむしられるような音。  不協和で地の底から響くような重低音の上に、やたら甲高い音が乗って火花のように踊る。  20000Hzはあろうかという高音の旋律は、ジーグに不吉をもたらした。  不安を呼び覚ますかのような音楽だった。

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