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第七章・7

 やめろ、やめてくれ。  俺が、何かしたか?  だが、俺は変わらんぞ。  これくらいの脅しで、翻ったりしやしないぞ!  これは、俺に対する罰なのか。  そんな風に、ジーグは考えた。  地下を抜け出し、自我を持ち、一個人として生きることへの警鐘なのか。  強がってはみたものの不安に耐えきれず、圧迫してくる闇に耐え切れず、思わず煙草の火を手の甲に押し当てた。 「クッ!」  熱い。  だが、この熱さが、痛みが俺という人間がこの世に存在する証。  降り注いだ流星に、火球。  そして謎の音。  ジーグは、それら全てに挑戦的な思いを抱いた。  神が俺を。  俺とギルとを気に入らないというのなら、とことん逆らって見せようじゃないか。  そんな気持ちで、歯を喰いしばった。  時間は、ほんのわずかだったはず。  だが、やけに長く感じた。  手の甲を焼く熱さが、痛みが軽くなり、見開いた眼で睨みつけた闇の中、やたら明るい光が戻る気配を感じた。  聖地・メインセンターの照明が、復旧したのだ。  それを合図に、ジーグは煙草をようやく手から離した。 「痛い、というより重く感じたな」  ふん、と鼻を鳴らして舌を出し、火傷の痕をぺろりと嘗めた。  苦い。  煙草の火は、約700~800℃。  もちろん痕はしばらく残るだろうし、痛いだろう。  冷静になった今、好奇心旺盛な少年でもあるまいし、馬鹿な事をやったもんだと自分に呆れた。 「あぁ。もう、風呂入って寝るか」  ギルは帰ってこないし。    ジーグは風呂には入ったが、寝ることはできなかった。  ベッドに潜り横になっても、眼だけはやたら冴えていた。 (ギルは、帰ってくるだろうか)  これまでに、午前様は何度かあった。  だが、完全に朝帰りをした事はただの一度もないのだ。  帰ってきてくれ、と半ば祈るような心地で、眠れない夜を淡々と過ごした。

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