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第七章・8

 ジーグ   誰かが俺の名を、呼んでいる。  ジーグ  ギル……、じゃない。  あいつはこんな抑揚で、俺を呼ばない。  ジーグ ジーグ  それは人の声と言うより、何か楽器の類で。  音の高低で『ジーグ』と聞こえる旋律を作っているようだった。  ジーグ ジーグ ジーグ 「よせ!」  誰かは知らんが、何かは知らんが、その名で俺を呼ぶのはやめろ。  この名を呼んでいい者は、ギルだけだ。  俺を、ジーグ、と呼んでいいのは、ギルだけだ!  起きているのに、眠っている。  現実なのに、夢の中。  白昼夢?  今は夜だが、それでも白昼夢と呼んでいいのか?  謎の響きに気は焦り、憤慨しながらも、頭の隅は妙にクリアだ。  ただ、体が動かない。どう頑張っても、指一本動かせない。  解かっているのに!  この指一本でも動かせば、この不快な響きから、このもどかしい状況から脱出することができるのに! 「……ーグ。ジーグ、ジーグ!」  は、と我に返ると、嫌な響きはギルの声に変わっていた。  ギルだ。  本当に本物の、ギルが俺を呼んでいるのだ。  ジーグは、ただ夢中で自分の体を支えるギルにしがみついた。

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