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第七章・16
しかし、明るさを増してきた朝の空の中でも、その星雲らしきものは姿を消さない。
それだけではなく、緑色のほかにも赤に青、紫など、様々な色をした散光星雲が穏やかに広がっている。
そして。
「あ、あれは!」
こんな声を上げるスピスなど、最近とんとお見限りだ。
驚いた神騎士の仲間たちだったが、彼が指した先を見て絶句した。
「月、だと!?」
「あんなに大きく……」
東から昇る満月が、このように大きく見えることはある。
しかし、昨晩は新月だったはず。
だのになぜ、満月が!
しかも、早朝の光の中に!?
「月の顔が、変わっている」
は、と皆がナーワを見た。
これまた珍しいことに、彼がその眼を大きく見開いて月を凝視しているのだ。
驚かなかったのは、ただ一人。
ニネットが自分ひとり、納得した声色で呟いた。
「ありゃあ、月の裏側だ。なぁるほど、闇界がとんでもないくらい近づいた、近道ができた、てぇのは、こういう訳かぃ」
闇界への入り口は、月の影に現れる。
その月が、これほどまでに聖地に近付いている。しかも、裏側を見せて。
「最終戦争が間近だ、ということですか」
引き締まった声で、ルキアノスが法皇へとまなざしを向けた。
左様、と重々しい響きで答えた法皇だったが、次の言葉はやや明るかった。
「そして、女神ファタルが昨晩ついに御降臨あそばされた」
一斉に、どよめきが上がった。
「太陽のもとで見える星雲。そして、裏側を向けたまま沈まなくなった月。全てが、最終戦争のためファタルが御用意なされたもの」
唇を固く結び、決意の表情になった神騎士たち。
ひとりひとりの顔つきを確かめ、法皇は腕を大きく広げた。
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