157 / 216

第七章・18

 遥か下に、早朝のテスト運転を始めた飛行船がみえる。 (飛行船の高度を300mとすると……、ここは。この、法皇神殿の高さはその倍。600mはあるぞ!) (何を浮かれてるんだか。ナントカと煙は高いところが好き、と言うぞ?)  夢中でジーグと交信していたギルは、何者かの視線を感じて反射的に精神をブロックした。  無言で、彼を見つめていた人間は。 (法皇様!)  しまった、とギルは、自分の軽はずみな行動をようやく認識した。  致命的な失敗をしでかした、と後悔した。  法皇が、口を開く。  しかしその言葉は、ギルだけに対するものではなかった。 「これが、聖地13神殿の真の姿。ファタルをお守りするため、皆にはこれまで以上に励んで欲しい」  全員が、最敬礼で法皇への忠誠を誓った。 (お咎めは……無い?)  確かにあの時、私の所業を法皇様は悟られたと思ったのに。  場はいつの間にか解散となっており、それぞれが自らの守護する神殿を確かめに降りてゆく。  ギルもその波に乗って、下へと降り始めた。が、今一度、法皇の様子を窺わずにはおられなかった。  法皇の顔。  その口の端が、上がった。  わずかに微笑んで、こちらを見た。   ギルは慌てて眼を逸らし、駆け足でザン神殿へと向かった。  後には、法皇の間には、その主たる聖人のみが残されたはずだった。だがしかし。 「なぜ、自分の神殿へ行かぬ。ナーワ」 「法皇様。ギルの言う、ジーグ、とは何者ですか」  法皇の傍から離れぬ神騎士が、一人。    ギルのテレパシーを感じ取っておったか。  さすがは、最もサイキック能力が高いと謳われるだけはある男よ。 「彼の弟だ。双子の、な」  まるで当然のように。  まるで取るに足らない事のように。  法皇がそうおっしゃるのならば、そのように考えておくほかはない。    ナーワはそう判断した。  今は。  そして、自らの守護する神殿へと降りて行った。  ようやく法皇は、一人になる事が出来た。  オーラを駆使し、分子配列を元に正す。  透明であることを辞めた法皇神殿は、主をその中へしっかりと隠した。  胎児を守る子宮のように。  雛を守る殻のように。

ともだちにシェアしよう!