160 / 216
第八章・3
ルキアノスか?
それとも、ジーグか?
心の中に、一瞬にして自分に対する疑問が湧いたのだ。
そんなギルをおいて、ニネットは去ってしまった。
彼の背中を見送る間も、さまざまな思いが渦巻いた。
そして、一つの答えを導き出したギルは、鞄からタブレットを取り出した。
くだんの遊覧飛行船の、予約状況を開く。
ニネットの言ったとおり、すでに向こう一週間は全便予約でいっぱいだ。
そのうち本当に、一年後のチケットを買うはめになる事だろう。
しかしチャーター便となるとぐんと値段が上がるので、こちらはまだ大丈夫だ。
それでも、3日後のチケットを予約しなくてはならなかった。
腹を括った。……つもりだ。
いや、もしかすると、3日のうちに気が変わるかもしれない。
それでもいいから、と自分に勇気を出すように言い聞かせ。
まだ不安な心地のまま、ルキアノスへ電話をかけた。
電話口のルキアノスの声は、少し疲れているようだ。
まずはねぎらいの言葉をおくると、途端に彼の声に張りがでた。
「タン神殿って、結構位置が上だろ? 気圧や気温に敏感な精密機器類が、悲鳴をあげてるんだ」
「人間はどうなんだ。スタッフは皆、君みたいに丈夫な体を持ってるわけじゃない」
スタッフの健康より機器類を先に挙げたルキアノスに、ギルは少々鈍さを感じた。
「そういえば、寒い寒いと言ってる奴がいたなぁ。そうか、彼らにも気を配らなきゃね」
ギルは、軽く笑った。
こんなところが、ルキアノスらしい。自分が感じない辛さには、やたら鈍感なんだ。
彼のそんな気性を、私は憎んだ。
そして今は、憎みつつ愛している。
胸の内で確認した後、自らは気づかぬまま、ギルは運命の輪をまたひとつ回した。
飛行船で、空を遊覧しないか。
3日後の予約を、取ってるんだ。
ともだちにシェアしよう!