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第八章・3

 ルキアノスか?  それとも、ジーグか?  心の中に、一瞬にして自分に対する疑問が湧いたのだ。  そんなギルをおいて、ニネットは去ってしまった。  彼の背中を見送る間も、さまざまな思いが渦巻いた。  そして、一つの答えを導き出したギルは、鞄からタブレットを取り出した。  くだんの遊覧飛行船の、予約状況を開く。  ニネットの言ったとおり、すでに向こう一週間は全便予約でいっぱいだ。  そのうち本当に、一年後のチケットを買うはめになる事だろう。  しかしチャーター便となるとぐんと値段が上がるので、こちらはまだ大丈夫だ。  それでも、3日後のチケットを予約しなくてはならなかった。  腹を括った。……つもりだ。  いや、もしかすると、3日のうちに気が変わるかもしれない。  それでもいいから、と自分に勇気を出すように言い聞かせ。  まだ不安な心地のまま、ルキアノスへ電話をかけた。  電話口のルキアノスの声は、少し疲れているようだ。  まずはねぎらいの言葉をおくると、途端に彼の声に張りがでた。 「タン神殿って、結構位置が上だろ? 気圧や気温に敏感な精密機器類が、悲鳴をあげてるんだ」 「人間はどうなんだ。スタッフは皆、君みたいに丈夫な体を持ってるわけじゃない」  スタッフの健康より機器類を先に挙げたルキアノスに、ギルは少々鈍さを感じた。 「そういえば、寒い寒いと言ってる奴がいたなぁ。そうか、彼らにも気を配らなきゃね」  ギルは、軽く笑った。  こんなところが、ルキアノスらしい。自分が感じない辛さには、やたら鈍感なんだ。  彼のそんな気性を、私は憎んだ。  そして今は、憎みつつ愛している。  胸の内で確認した後、自らは気づかぬまま、ギルは運命の輪をまたひとつ回した。  飛行船で、空を遊覧しないか。  3日後の予約を、取ってるんだ。

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