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第八章・5

「飛行船で、空を遊覧しないか。3日後の予約を取ってるんだ」  ルキアノスに言った事とそっくり同じ言葉を、ギルはジーグに投げかけた。 「飛行船? 何でまた。やけにレトロだな」  毎年赤字続きで、航路廃止が続く飛行船だ。  今では遊覧船事業部が何とか屋台骨となって、細々と存続している交通機関のはず。  そう、ジーグは話す。  こういった知識をまるでスポンジのようにどんどん吸収し、いつしかギルより物知りになってしまった。  そんな気乗りしないといった風の弟を、兄は熱心に誘った。 「今朝、ヴィジョンを送っただろう? あの壮大な天空の芸術を、宙空に浮いた13神殿を、飛行船で間近に見たいと思わないか?」 「大袈裟だな」  ギルはしばらく多忙になるはず、と察したジーグが用意していた夕食は、簡単に食べられて片付けのいらないデリバリーのピザやチキンだった。  そのピザを一切れ頬張りながら、ジーグはのんびりとした口調で、しかし厳しい現実をギルに突きつけた。 「神殿が、あんなに高く上がったんだ。あれだけ座標軸が変われば、いろいろと環境設定の変更が大変だろう? 呑気に飛行船で空中散歩、なんてやってていいのか?」  確かにそうだ。  しかし、ジーグならそう言うはず、と答えもちゃんと用意してある。 「だから、3日後、なんだ。その頃には私も、疲労がピークに達してるだろう。そこで思いきって、丸一日休暇を頂いて、リフレッシュしようと考えた」  そんな一生懸命なギルに対しても、ジーグは気のない返事を返すだけだ。ふ~ん、などと。 「そんな発想するなんて。ギル、何だか変わったな」 「変わったのはジーグ、お前の方だろう」  互いに変ったのだ。  さらにギルは、今日の失態を機に劇的に変化した。

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