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第八章・7

「ちょっと早すぎたかな」  そんな小さな独り言を呟きながら、ルキアノスは飛行船のターミナル内を見渡した。  平日の定期便は15:30で早々に終了しており、人影はかなり少なかった。  まだうろうろしているのは、おそらくそれ以降の臨時便やチャーター便を予約していた人たち。  空の散歩を楽しんだ後、興奮したおももちで口々に感想を言い合っている。  だが彼らも、間もなく立ち去る。  この後は、ギルが特別にチャーターした三ッ星の遊覧飛行船しか出航しないのだから。  もし君が早かったなら、先に乗っていてくれ。  そんなギルの言葉通りに、ルキアノスは飛行船に乗るべく搭乗カウンターへ向かった。  誰もいない、ロボットすらいない、無人のカウンター。 「子どものころには、美人アンドロイドのお姉さんがチケットをくれたんだけどな」  経費削減、経費削減、と唱えられ、人件費の要らない彼女すら撤去されるとは。  ルキアノスは肩をすくめ、仕方なくセルフサービスでチケットを買うことにした。 『遊覧船』そして『チャーター便』のパネルをタップした。さらに『18:00』を選択して、もう一度タップ。  2秒ほど後『認証IDを入力してください』と表示されたので、ギルに教えてもらっていた8ケタの予約番号を入れた。  滑るように、チケットが出てくる。  さほど大きくはないが、見る角度によって画の変わる立体ホログラム性の派手な乗船券だ。  記念にどうぞ、と言う事か。  苦笑いしてそれを胸ポケットへ収めていると、飛行船会社の制服を着た女性が慌ててこちらへ向かってきた。 「失礼しました。ご案内いたします」  さすがに星の付いたチャーター機ともなると、貴重な人員を動かしてくれるらしい。  彼女の案内で約70m程度の半硬式小型飛行船へと向かい、滑り止めの絨毯まで敷かれたタラップを昇る。 「ありがとう、ここまでで結構だよ」 「どうぞ、快適な空の遊覧をお楽しみください」  やたらイケメンのルキアノスを意識して、ずっとやけに緊張していた女性は名残惜しいのか、ホッとしたのか。  そのどちらともとれる声色と表情とで陸に残って、ゴンドラへと消える彼を見送った。

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