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第八章・9

 4機のエンジンプロペラが、飛行船を上空へと静かに舞い上げた。  地上に残った離陸スタッフが見る間に小さくなり、快適なフライトが始まった。 「自力での垂直離着陸、空中でのホバリング、定点での空中360度回転。昔とは比べ物にならないくらい性能が良くなったな、飛行船は」  レトロな外観とは異なり、最先端の航空工学を元に作られている飛行船は、管制塔からのコントロールで無人飛行すら可能にした。 「そして、わざわざチャーター機を無人操作にしたという事は、我々だけで内密に話したいことがある。そうだな、ギル?」  一等コンパートメントで食事を摂りながら、飛行船について他愛もない話をしていたルキアノスが、突然核心を突いてきた。  それまで、ジーグの素性すら尋ねなかったというのに。 「そんな事より外でも眺めたいな、俺は。ギルお勧めの、空中遊覧だ。しかも夜間飛行ときてる」  ぼんやり星雲でも眺めて、美しいなどと呆けていたい、とジーグがうそぶく。  ジーグはジーグで、ルキアノスに得体のしれない不気味さを感じていた。  一目見て、俺をギルじゃない、と判断し、しかもこのジーグという名前すら知っていた。  ギルはどこまでルキアノスに俺の事を話しているのか。  奴はどこまで俺の事を知っているのか。  答えは、ギルが出した。  それまであまり話さなかったこの双子の兄が、堰を切ったかのように訴え始めた。 「ルキアノス、ジーグは私の双子の弟だ。以前見た、機密の地下室。あそこから脱出してきた」  ギルの代替品ではなく、一個人として生きることを望んだジーグ。  兄もその尊厳を大切に守り、彼をかくまい暮らしてきた。 「ジーグの名は、私のテレパシーを拾って知ったのか?」  私は君にジーグの事は一言も話していない、とのギルの言葉に、双子の弟は内心ホッとした。  兄は、俺を売るような真似はしていなかったのだ。

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