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第八章・10
「君らしくもなかったな。あんなに興奮していたら、ロックを掛けていても漏れるよ」
ギルの思考を拾うか拾わないかは、テレパシー能力の優劣にかかるし、彼に対して興味を持つ持たないにかかっている。
「大切な君の事は、いつも気にしているからね」
歯の浮くようなセリフを、とジーグは眉根を寄せた。
いけすかないルキアノス。
早くこんな奴とはおさらばしたいところだが、飛行船は高度400m付近まで上昇している。
今が折り返し地点、というところだ。まだまだフライトは続く。
しかしギルは焦っていた。時間は、残り半分しかないのだ。
「結論から言おう。ルキアノス、私が法皇になれるよう、協力して欲しい」
私は、法皇になりたい。
これにはジーグもルキアノスも驚いたようで、オブラートに包んだ会話など止めてギルを見た。
「私が法皇になれば、ジーグをザンの神騎士として日の当たる場所へ出す事も可能だ。頼む」
沈黙は、まずジーグが破った。
「そこまでして表舞台に立とうなんて考えた事もないぞ、俺は。余計な御世話だ、止めろ」
「もう、いつまでも隠し通せない。今回の私の失態で、法皇様はおそらくお前の存在に気づかれたはずだ」
ふと、飛行が停まった。
飛行船は、遊覧のハイライトである13神殿の見える場所でホバリングを始めたのだ。
観覧モニターで、夜空に浮かぶ空中神殿を3人は眺めた。
それぞれ、異なる心象で。
ライトアップされた神殿は、まさに神々しい趣きで輝いていた。
ファタルの降臨に併せて現れた星雲ですら、この神殿を彩るために用意されたもののように思われた。
ああ、そしてその13番目の神殿には、法皇様が。
彼に成り替わる、という野望を私は抱いている。
ギルは眼を閉じた。唇を噛んだ。
その表情は、苦悩か。それとも、決意か。
ルキアノスとジーグには、ギルの真意が解からない。
ただ一つ言えるのは、彼が冗談抜きで本当に法皇の座を欲している、という事なのだ。
(ジーグの為、か。弟の為に、俺に根回しまでして法皇になろうというのか?)
(俺の為に法皇になりたい、だと? それだけか、ギル。理由は、本当にそれだけなのか?)
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