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第八章・11
不気味な沈黙に耐え兼ねたのか。
いや、ルキアノスはそんな男ではない。
言葉は常に選んで発する、計算のできる男だ。
計算づくか、真心からか。
とにかくルキアノスは、さほど悪くはない返事を寄越してくれた。
「こればかりは俺の一存でどうこう出来る問題じゃないから、絶対とは言えないけれど」
だけど、安心しろとルキアノスは言う。
「安心してくれ、ギル。悪いようにはしないつもりだ」
「ルキアノス……」
ギルの緊張が、ほろりとほどけるのがわかる。
ちりり、とルキアノスの神経が焼ける。
そんなにジーグが大切なのか、ギル。
俺の将来を左右する事すら、厭わないほどに?
「ただし、条件があるよ」
幼稚な嫉妬がルキアノスに沸き起こり、衝動的に唇を衝き動かした。
芝居がかった身のこなしで、ソファに座るギルの隣に深く腰掛けると、ルキアノスはジーグに挑戦的な言葉を何でもない様にさらりと言った。
「今から、ギルを抱く。ジーグ、君はそこで見ていろ」
今日、一番眼の色を変えたジーグを、ルキアノスは愉快に思った。
顔色まで大きく変えたのは、やはりギルの方だった。
冗談はやめてくれ、と引け腰のギルにところ構わずキスを落しながら、ルキアノスはジーグと話す。
今から愛し合おうというギルに甘い言葉を囁くのではなく、弟・ジーグに宣誓する。
そう。ギルの腰に手をまわして見せた時から、このジーグという男は俺に宣戦布告をしていたのだから。
だったら、受けて立とうじゃないか。
「ジーグは、一部始終を大人しく見ているんだな。君の双子の兄さんが、眼の前で俺に服従する様子を」
「ルキアノス!」
「ギルは黙っていい子にしていればいいんだ。いつものように、ね?」
指で髪を梳かれ、胸元から衣服を乱される。
そしてその指先の熱さに、ルキアノスの本気を感じ取る。
解かった。
ギルは、抵抗をやめた。
そして自分から、ルキアノスを愛しにかかった。
これで私が法皇となる可能性が、わずかでも増すのなら。
容易いことだ。
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