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第八章・12
そんなギルを、ルキアノスを、ジーグもまた冷めた眼で見ていた。
芳醇なワインを傾けながら、まるで酒宴の余興でも観るかのように。
馬鹿な男だ、ルキアノス。
そんな事をしても無駄だ。
俺は嫉妬に狂いもしないし、ギルは屈辱を感じたりはしない。
舐めるなよ、俺を。
俺たちを。
だが、殺す。
いつかお前を消してやる、ルキアノス。
ジーグに殺意が生まれた時から、室内の温度は上がって行った。
飛行船でのフライトは、飛行機で移動する時とは全く異なる時間が流れるようだと、ある搭乗者は言う。
『自然と一体になっている、という感じでしょうか。鳥になって空を飛び、地上でのいろんな煩わしい出来事もすべて忘れてしまう……。そんな贅沢な気持ちを味わうことができます』
飛行船会社が、喜んでPRに使いそうな感想だ。
だが、ここにいる3名の男たちは、そんな飛行船の魅力などまるで無視して、膿んだ情事に耽っていた。
ギルの押し殺した悲鳴が上がる。
身体を大きく反らせ、やがて糸の切れた傀儡の様にぐったりと脱力する。
「これで3度目だ。ジーグに観られてるのが、そんなに悦い?」
そう言ってルキアノスは、ギルに付けたスキンを手早く交換するのだ。
自分は一度も出さないままに、存分にギルだけに吐かせている。
さすがに借り物の飛行船を汚してしまうわけにはいかないので、互いにゴムは付けている。が、それすらジーグにとっては笑い話だ。
最初っから、ヤる気満々で準備してた、ってわけだ。お盛んな男だ。
ルキアノスをこんな風に茶化す事で、ジーグは心のバランスを取っていた。
何も驚く事はない。ルキアノスの巨根も、そのやり方もテクニックも、全て身を持って経験済みなのだから。
地下を抜け出し、ギルの元へと走って間もない頃に、このルキアノスという男を通して兄の気持ちを探った。
あの頃から、何一つ目新しいことは無い。
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