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第八章・13
しかし、そのルキアノスが全くこちらを見ない事には、イラついていた。
どうだ、とでも言わんばかりに。
ジーグに見せつけるかのように、ギルの痴態を引き出すとばかり思っていたのに、まるで無視して自分だけが楽しんでいるのだ。
まるで、眼中にないかのように。
まるで、そこに居ないかのように。
お前など、居てもいなくても問題ない。
俺には、俺たちには関係のない事なんだよ、ジーグ。
そんなルキアノスの声が聞こえてくるようだ。
ジーグがわずかに音を立ててグラスをテーブルに置いたところで、ひときわ高いギルの声が響いた。
ルキアノスが、激しく突き挿れ始めたのだ。
ローションの濡れた音が零れ、ソファの軋む音が鳴る。
そして、ギルの声が響く。
「あっ、あッ! あぁ、ルキアノス……ッ!」
「ギル、どうして欲しい?」
円を描くように腰を捻らせ、ねちっこくギルを苛めるルキアノスの声を、ジーグは卑しいと感じていた。
だが、相変わらずその顔つきは無表情のままだ。
「内に。私の、内に……ッ!」
「素直な君は可愛いよ、ギル」
ギルもまた、ジーグがここに居ることをまるで忘れているかのように溺れている。
(いや、本当に眼中に無いのかもしれん)
血肉を分けた弟を救うために、ライバルに頭を下げてまで法皇になりたいと吐いたギル。
だが、今の兄はどうだろう。
聖職を欲した舌の根も乾かぬうちに、本能のまま性欲を貪っている。
(法皇位など、糞喰らえだ)
「あぁ、あッ。はぁ、はぁ、あッ、あッ、あぁああ!」
「ギル……、ギルッ!」
どさり、とルキアノスとギルの体から力が抜けた。
見ると、ルキアノスの腰が痙攣している。ひくひくと蠢き、絶頂の余韻を味わっている。
後は、キスの音が。
互いを労わるかのように、甘いキスを交わすギルとルキアノス。
そしてその眼は、やはりジーグを見てはいないのだ。
3人ではなく、2人と1人。
そうジーグが思った時、ようやくルキアノスがちらりとこちらを向いた。
勝ち誇ったような眼差し。
その視線に、やはりジーグは殺意を覚えた。
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