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第八章・14
まるで気狂いの飛行船遊覧を終え、ルキアノスはその足で年少宿舎へ向かっていた。
頭の中は、ギルとジーグでいっぱいだった。
辱め、汚してしまおうと企んだ悪ふざけが、まさか自分の首を絞めることになろうとは。
正直、あそこまで双子の反応が冷静なものになるとは、予想だにしていなかった。
許しを請うギル。
怒り狂うジーグ。
そんな彼らを期待していたというのに、結果は自分の独り相撲に終わった感がしていた。
そして彼ら兄弟を見るうちに、会いたくなった人がいるのだ。
ひどく年の離れた12歳の弟・ステリオスだった。
夜も更けていたので、ステリオスはパジャマ姿でルキアノスを出迎えた。
「ルキアノス兄さん!」
まだ幼い弟は、すでに成人済みの兄にとても懐いていた。
子どもらしく、体中でぶつかり腰に手をまわして喜んだ。
「会いに来てくれて、嬉しいです!」
「ステリオス、また少し背が伸びたな」
「兄さんくらいに、高くなれるでしょうか」
「よく食べ、よく運動し、よく眠れば大丈夫だ」
トレーナーの先生のおっしゃる事と同じです、と膨れるステリオスに、兄は心が温まる思いだった。
そんな彼に、ステリオスは色紙とペンをよこすのだ。
「実は、僕はタンの神騎士・ルキアノスの弟だと言っても、だれも信じてくれないんです」
証明したいから、サインをください、とペンを握らせてくるのだ。
これには、ルキアノスも参った。可愛すぎるだろう、この弟ときたら!
ギルも、同じだろうか。
やはりギルも、ジーグの事をこのように大事に思っているのだろうか。
弟という人間への愛情を確かめるため、ステリオスへ会いに来た。
結果、ステリオスは無条件に愛おしい存在だった。
弟は、理屈など無しに可愛かった。
苦しい程に、妬けた。
俺とギルとの十数年を、一飛びで越えてしまった男・ジーグ。
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