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第八章・15
「兄さん?」
は、とルキアノスは我に返った。
色紙とペンとを握りしめ、ステリオスが心配そうに見ている。
「ああ、少し考え事を。すまない」
そして、弟から色紙を受け取ると、軽やかにペンを走らせた。
「大切にします。宝物にします!」
これが、弟というもの。
これが、家族というもの。
ジーグの気持ちに、ギルの気持ちに少しでも添えたんだろうか。これで。
ステリオスの真っ直ぐな視線が、少しだけ痛く感じられた。
まるで気狂いの飛行船遊覧を終え、ギルはその足で神殿へ向かっていた。
頭の中は、ルキアノスとジーグでいっぱいだった。
神殿と言っても、13宮殿のひとつではない。
簡易な礼拝などの行われる、町中の小さなファタル神殿だ。
しかしそこには、今のギルが心の拠り所にする離れが設けてある。
自分の犯した罪に耐えられなくなった者の為に設けてある、告解の部屋。
ギルは、これまでに何度かここを訪れた事がある。
しかし、本当に室内へ入って罪の告白をするのは初めてだ。
まだ少年の頃、いろいろと悩んでは神官に打ち明けてしまおうかと思ったものだ。
それでもそうするには、ギルにはプライドがあり、またルキアノスがいた。
ルキアノス様に直々に指導してもらっているこの私が、泣きごとなど吐いてはおられない!
そんな風に、自分を奮い立たせていた。
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