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第八章・17
ギルが最も恐れている事は、ジーグの処遇だった。
自我を持ち、独り立ちしたジーグは、聖地の名の元に闇から闇へと葬り去られるのではないか。
しかしその最高責任者たる法皇は、処分どころかジーグの成長を喜んだ。
「ギルとは別の名を持ち、ギルとは別の道を歩み始めたか。それは重畳」
「しかし、私はジーグを」
「まぁ、待ちなさい」
子どもをあやすような温かな口調にギルは緊張が解けてゆく心地を感じたが、次には息を呑んでいた。
法皇が、仮面に手を掛け外して見せたのだ。
有機メタルで素顔に埋め込まれていた仮面は、血管の浮いた皺のある手に収まった。
しかしその手が、仮面を取った途端に瑞々しさを取り戻す。
若い、男の手に変わる。
「法皇様!?」
「この素顔を晒したのは、ギル。お前が初めてだ」
私の名は、リーエン。
先の最終戦争を、ティーの神騎士として戦った過去を持つ男。
仮面の下の素顔も、若い青年だった。
その眼差しも、髪も肌も、張りのある輝きを持っている。
法皇は200年もの時を越えて生きる老人、とはまことしやかに囁かれる専らの噂だったが、彼は到底200歳には見えない。
「私を200歳以上の古老、と呼ぶ者もいるが、あながちそれは誤りではない」
言葉を失ったギルに、リーエンは淡々と語って聞かせた。
「代々法皇の座は、元・ティーの神騎士が継承してきた。ただそれらは全てリーエンα、リーエンβ、リーエンγ……。あの地下室を見たからには、理解できるな?」
「はい」
「そして、私がその最期の一人。もう、私の代わりはいないのだよ」
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