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第八章・19
リーエンの予言に押し潰されそうになりながら、ギルは縋った。
愛する人に。
愛する人たちに。
私はルキアノスを愛している、だがそれと同じように、ジーグも愛しているのだ。
以前ならば、法皇の座は人生の集大成だったはずだ。
幼い頃からその背中を追ってきたルキアノスに追いつき追い越し、彼より高い地位へと駆け昇り見下ろしてやるつもりだったはずだ。
だが彼を愛し、ジーグをも愛した事で憎しみに塗り固められていた心が、柔らかさを取り戻した。
だからこそ、懺悔しようとここへやって来たのでは?
ギルはリーエンの足元へと両膝を折った。こうべを垂れ、許しを乞うた。
「どうか。法皇様、リーエン様。ルキアノスを愛し、ジーグを愛してしまった私を。肉のつながりさえ持ってしまった私を、どうぞ罰して下さい。ただ、ジーグだけはお許しを。彼に罪はありません」
ふわり、と空気が動いた。
リーエン法皇が腰をかがめ、ギルと同じ低さまで目線を持ってきたのだ。
あまりに畏れ多い事。
ギルは歓喜と恐怖に震えた。
「もう、始まっているのだよ。罪も罰も。お前たちが自ら罪を被り、自らを罰する」
ただ、信じるままに生きなさい。
そして、愛しなさい。
答えはおのずと解かるはず。
跪き、床に視線を落としたまま、ギルは震えていた。
衣擦れの音が遠のく。
法皇様が、リーエン様が行ってしまう。
しかし、顔を上げて縋りつく勇気を、ギルは持ってはいなかった。
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