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第九章・2

 そして、こんなに意地悪な選択を振ってくる。  ずきずきと脈打つ体は、どちらを欲しているのだろう。  答えは、自分の体に訊けば簡単だった。  牡の印をこれだけ勃ち上げながら、後ろの薔薇蕾がじっとりと潤うほどにひくついているのだ。 「抱いてくれ」  それだけを、かすれた声で口走った。  ゆったりと準備を始めるジーグの動きが、緩慢にさえ感じられる。  ギルは身を震わせながら、待った。眼を固く閉じ、腰をにじらせ、両脚を擦り合わせながら、腹の奥に淀んだ吐精の疼きに耐えた。  つぷ、と挿れられたジーグの指。ギルはそれを手で払った。 「早く」 「でも」 「いいから」  指で、ローションで慣らしてから、との俺の好意はいらぬ親切だったらしい。  手順を踏むのももどかしい程、ギルは餓えている。  お望み通り、すぐさま本番に移った。  正直、もどかしいのはギルだけじゃない。俺の喉もカラカラに乾いているのだ。  たっぷりとローションを絡めて、ジーグはギルの体内へ侵入した。  冷たいジェルと温かい体内の温度差が心地悦い。  軽く抜き差しした後、腰を撃ち込んだ。 「ぅくッ」  ギルの背筋が反り、髪が散る。  正常位なので、その表情もジーグを昂ぶらせる絶好の餌になる。  このところ、業務に忙殺されているギル。  それは神騎士であれば、皆同じのはずだ。あのルキアノスも例外ではないだろう。  こんなギルの表情は御見限りだろう? ルキアノス。  だが残念だな。俺はこのとおり、毎晩のようにギルと寝ているぞ?  そう、どんなに遅くなっても、ギルはジーグを求めてきた。  そして性交に溺れ、我を忘れて狂っている。  これはルキアノスが飛行船の内で興じた、馬鹿なセックスの反動なのだ、とジーグは思っていた。    俺に対する後ろめたさか?   それともルキアノスに愛想を尽かす寸前の表れか?  そしてジーグは、どちらでも構わなかった。  屁理屈なんかどうでもいい。  俺と寝たい、と齧りついてくるギルの感情を舐め喰らう事がただ旨い。  激しく速く、細かく腰を穿つジーグの手指に爪を立てながら、ギルは悲鳴を上げていた。  甘い、快楽の滴る悲鳴。  しかしその裏では、必死で振り払おうとしている恐ろしい言葉が軋んでいるのだ。  もう、始まっているのだよ。罪も罰も。お前たちが自ら罪を被り、自らを罰する。  法皇の言葉など、ジーグは知る由も無かった。

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