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第九章・4

 はたしてそうだろうか。  憎悪の底に、厚い愛念の層が隠れていただけなのかもしれない、とギルは思う。  なにせ今となっては、法皇の座を譲ってほしい、などと破廉恥なおねだりまでしてしまうほどに、彼にもたれ掛かっているのだから。 「……ル。ギル?」 「え。あ? あぁ、すまない」 「ぼんやりして、どうした。疲れたのか?」  生返事をかえすギルに微笑むルキアノスは、いつもの朗らかな男だ。  飛行船で暴露したジーグの存在も、ギルの途方もない願いも、そして自らの茶番も、全て何事も無かったかのようにふるまう、いつものルキアノスだ。  やはり、彼のこういう食えない点は憎々しい。 「フィードバックの前に、シャワーを浴びたいんだがな。俺は」 「何か理由があるんだろう。私たちに急ぎ伝えたい事がある、とか」  そして、彼の態度に嫌味を覚えながらも、何食わぬ顔で会話を交わす自分も憎らしい。  ギルの胸の内を知ってか知らずか、ルキアノスはそれきり何も話さなかった。  ただ静かに、棟三階のモニタールームで待っている天才技師の元へと進んだ。    二人が沈黙を保ったまま静かにモニタールームへ入ると、彼・キュクロプスは逆に賑やかな拍手で迎えた。 「さすが、神騎士の中でも最高位のお二方。まさか最新版のプログラムを、途中で見切ってしまわれるとは!」  ルキアノスとギルに椅子を勧めながら、キュクロプスはべらべらと一人で喋った。 「カオス理論に基づいて育てたエネミーです。一体毎に、個性がある。まるでばらばらの攻撃を仕掛ける彼らを、どうやって仕留めていったんです? 今後の参考に、ぜひお聞かせ願いたい」 「待ってくれ。これは俺とギルとのシミュレーションだ。フィードバックなら、俺たちを主体にして欲しい」 「あまり時間も無いんだ。手短に頼むよ」  放っておけば、一人で3時間は喋り倒す男だ。  ルキアノスとギルは、早い段階で予防線を張った。 「あぁ、そうでしたね。では、動画を見ながら振り返りましょうか」  頭の切り替えが早いところが、彼の美点の一つだ。  先程までの模擬戦の要所要所で録画を止め、三名で反省会を行った。  ただ、今日のキュクロプスは、やけに話を伸ばしたがった。  モニタールームからは他の技師たちが片付けを終え、一人またひとりと退出してゆく。  ついには三人だけになってしまったところで、ようやく長い長いフィードバックは終了した。

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