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第九章・6
「毛髪、唾液、皮膚などから、ファタル様の御身体を構成する物質を調べたんですがね、結果、この聖地……地球上には存在しない未知のものが含まれていましたよ」
神に対して何という不遜なことを、と二人は異口同音に散らかしたが、それは法皇様からの正式な依頼を受けての調査だ、という返事には黙らざるを得なかった。
「あの謎の流星群が見られた夜に御降臨なさったらしいけど、まさに宇宙からやって来た神様。もしかして、宇宙人なのかもしれませんねぇ」
そしてキュクロプスは、おもむろにカップの中身を例の白金のおくるみに落として見せた。
「まあ、見てください」
いぶかしげにおくるみの中を覗き込んだギルとルキアノスは息を呑んだ。
当然中は、つぶれたプディングで汚れているに違いないと思っていたのに!
「宙に……」
「浮いてる?」
おくるみの中心に、柔らかな菓子はその形を保ったまま浮いているのだ。
「これだけで驚いてくださいますな」
歌うようにそう言った後、技師がその白金の楕円を手に取った。
何らかの操作で蓋が閉じられ、全くのカプセル状となったそれを、思いきり上下左右にシェイクした。
これではさすがに、プディングも一溜まりもあるまい。それでもキュクロプスは余裕の笑みを絶やさなかった。
「巧くいったらお慰み」
再び蓋が開けられたおくるみの中央には、全く形の崩れていないプディングが震えもせずに静かに浮いている。
「これは一体」
「なぜ? いや、手短に頼む」
「物体の定点xyzを空間の重心に固定することができる装置が、このおくるみの正体でしてね。重力、慣性、アンチ・フィードバックなどの作用を全く受けずに、静かにぷかりと浮いた状態でいられる、という仕組みです」
解説は簡単だがそれを具現化し、さらにおくるみサイズに極小化してしまったという点に、この技師の天才を越えた狂気さえ感じる。
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