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第九章・7

「各実験施設をあんなに無防備な布のおくるみだけで渡り歩くなんて、ファタル様がお気の毒で。あ、もちろん蓋をしても息はできますよ? 温度、湿度などを一定に保つ機能も搭載済みです。オリハルコン製なので、サイズ変更も自動的に……」 「して、これを俺たち二人の手から法皇様に献上する、とは? そうすることに何か意味が?」  さすがに長くなってきたので、ルキアノスは話題を最もシンプルな展開に変えた。  するとキュクロプスは今までで一番難しい顔をして唸るのだ。 「正直、あなた方のどちらにも法皇様にはなって欲しくないんですよ、私は。二人して、法皇にはなりません、と言ってくれませんかね。そして、これからもずっと私の素晴らしいシミュレーターの実験体に……、いや失礼」  一体どこまでが本音でどこまでが冗談なのか。  いや、彼の事だ。全部が正直な所なのだろう。  ぼんやりと、そういった考えに落ち着いたギルとルキアノスには、まだとてつもない爆弾が隠されていた。 「さて、このおくるみサイズの赤ちゃんファタル様が、立派なレディに御成長あそばしたらばどうなるか!」  キュクロプスは、機材用の大型ロッカーを勢いよく開け放った。  そこには。  整頓されて空になった広い広い空のロッカーの中には、寂しく10代の少女がぽつんと立っていた。

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