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第九章・9

 仰向けに寝た姿勢のままで、ギルは片腕を伸ばした。  自然と指も伸ばし、天を欲するかのように。  そしてその手に温かな指が絡められる。  そうして欲しかったわけではないが、嫌ではない。むしろ、その熱が愛おしい。 「どうしたの?」 「何でもない」  ギルはルキアノスの部屋へ来ていた。  本来ならトレーニングの後にシャワーを浴びて、外食を、と考えていた今日のプランだったが、あのキュクロプスに散々掻き回されてすっかり台無しだ。  しかし、外のどこよりくつろげる彼の部屋なら何度訪ねても構わない。  気兼ねなくシャワーを浴び、食事をとって軽く飲み、後は寝室で愛し合った。 「まだ少し、息が切れてるね」 「嘘だ。そんなにやわじゃない」  じゃあ二回戦だ、と今度は両腕で体を抱き込んでくるルキアノスに、ギルは笑った。  彼のこういう無邪気な所は好きだ。  子どものような粗いキスが、吐息混じりの大人のそれへと変わる頃、ギルはぽつりと漏らした。 「この部屋で、あと何回こうして君とキスができるんだろう」 「そうだな」  そうだな、としか答えられないルキアノスだった。  近いうちに、俺たちのどちらかが法皇となる。  そうなると、互いの部屋で愛し合うなんてできなくなるのだ。  仕方がないので、こう言った。 「もし君が法皇に選ばれたら、ギル。俺を寝所へ呼んで、夜伽をお申し付けください」 「馬鹿だな」  くっくっ、と笑うギルの上下する喉にしゃぶりついた。  そのまま首のラインを大きく舐めながら往復し、行き掛けの駄賃とばかりに耳や鎖骨を愛撫した。  甘く、時には期待を裏切り強く食む。  そのたびにギルが息を漏らし、ひくりと反る気配がする。  そしてルキアノスの髪を弄る指先に力が入る。その力加減に攻める男は気をよくし、愉悦の笑みをこぼす。 「あぁ……、ギル」  溶けるように名前を呼ばれることが気恥ずかしくて、ギルは彼の首を抱いた。  胸に引き寄せ、抱きしめる。そうすると今度は、ささやかな乳嘴を苛められるのだ。 「ちょっと……、んぅ。やめ……」 「こうして欲しいから、誘ったんじゃないの?」

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