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第九章・11

 ルキアノスに、眠い、と訴えたのは早く帰る為の方便だったが、実際やや重くなった瞼でギルはジーグを見た。  絶対にルキアノスの元で夜明けを迎えることが無いのは、彼へあまりに寄りかかってしまわないようにするため。  あまりに溺れてしまわないよう、自分を律するため。  そんなギルの思いからだったが、ジーグが同居するようになって以降は、この双子の弟のために自室へ戻るようになっていた。  共に過ごすほどに離れてゆく、二人の個性。  ギルの想いも届かず、ジーグの方が夜明けまで帰宅しない事もざらだった。  彼を監視するつもりはないが、できればどこで何をしていたのか今日の事を尋ねたかった。  彼を束縛するつもりはないが、できれば外泊は控えて欲しかった。  だからギルは、いつも自分からその日の出来事をジーグに話して聞かせるようにしていた。  今夜は先回りして、弟に指摘されてしまったが。 「……ルキアノス臭い」 「解かるのか」  解かるも何も、とジーグは眉根を寄せてバスルームを指差した。 「あんな恥知らずな男と、よくもまあ寝る気になったもんだ。早くシャワーを浴びてこい」  恥知らずな、とは例の飛行船での痴態を指しているに違いない。  確かにわだかまりは多少あったが、残念ながらそれはギルだけの感情だった。  ルキアノスは何事も無かったかのように、これまで通りに振る舞うだけだ。彼らしく。ルキアノスらしく。  シャワーを浴びている最中に、ジーグが浴室へ入ってきた。全裸の所を見ると、彼も風呂に入るのか。  自分はもう1時間ほど前に浴びた、というジーグはバスタブに湯を張り、先に体を温め始めた。  シャワーを浴び終えてからギルも広い浴槽に弟と共に身体を沈め、今日の出来事を語り出した。  新しいシミュレーションで、ルキアノスと共に訓練を受けた事。  プログラマーが、斬新なおくるみをファタルの為に開発していた事。  技師はそれだけでなく、10代の少女に成長したファタルまでこしらえていた事。 「成長したファタル、か。興味あるな」 「こんな御姿だったぞ」  ギルは顔をジーグに近づけ、額と額を合わせて見せた。ギルの記憶が映像として、鮮やかにジーグの脳内へ滑り込む。

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