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第九章・12

「やけに無表情な、おすまし人形だな」 「有機メタルでできた、文字通りお人形さんだ。仕方がないさ」  ギルはこうして本日の出来事を全て話したが、ジーグの方は相変わらずハッキリとしない。 「出かけた。外へ」 「外って、どこへ」 「色々さ」 「またそうやって誤魔化す」  そこでしかたなくジーグは、聖地のメインセンターへ行っていた、と白状する。  こう言うと、ギルがいらぬ心配をするので黙っていたいのだが。 「誰かに見られたらどうする」 「俺の変装は完璧だぞ?」 「カードキーや認証IDが無いと、センター内へ入れないはずだが」 「あんなセキュリティ、抜け道はいくらでもあるさ」  聖域の中枢へ立ち入り、ジーグは一体何をしているのか。  ただの好奇心からくる冒険なら害はないが……。 「ギル、難しく考えないでくれ。俺はただセンターを見て歩きたいだけなんだ」  本当にそれだけか、とのギルの言葉は、ジーグの唇で塞がれすくい取られた。  じっくりと、ゆっくりと、ギルの咥内を舌で洗い清めるかのような口づけを、ジーグは贈った。  蒸気で温まったバスルームで、熱い湯に浸かったまま長いキスをしたのだ。唇を放す頃には、ギルはすっかりのぼせてしまっていた。 「先に上がるぞ」 「寝ててくれても構わないぞ。疲れただろうからな」  ルキアノスのせいで、とは言わなかったが、ジーグの嫌味はギルに届いたろうか。  ただ兄は何も言わず、バスルームから出て行った。  後に残ったジーグは指先で自分の唇を緩く撫で、ぼそりと呟いた。 「法皇神殿のセキュリティは、なかなか手強かったぞ」  しかし、すでに複数の解析パターンを思いついている。後はそれらに沿って、偽造カードを作るだけだ。  法皇神殿の中には、法皇が居る。 「会って、どうするんだ」  ふと、今更ながらの疑問が湧いた。  ギルを法皇にしてください、と頼むのか? 「まさか、な」  ただの遊びだ。スリリングな知能ゲームだ。  思いを断ち切るように、ジーグもまたざぶりとバスタブから出た。  冷たいシャワーをもう一度浴びて、思いもよらず充血した脳を冷やした。

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