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第九章・13
新法皇選出の日を2週間後に控え、それなりにルキアノスとギルは緊張を高めていたが、なにせ日一日が忙しいためそれにばかり気を取られることは許されない。
今日もまた、やっかいなプログラムを相手に、3Dエネミーを使っての戦闘訓練に汗をかいていた。
訓練を終え、キュクロプスと共に3人でフィードバックを行う。
全てが日常そのものだった。この技師が最後に口を開くまでは。
「そういえば、ファタル様はあのおくるみを随分気に入ってくださったようです」
法皇様からお言葉をいただきました、と彼にしては珍しく心底嬉しそうだ。
「ちゃんとお二人から渡してくださったんですね」
それはもう、とルキアノスは苦笑いした。
「カラドの誇る、天才技師の傑作だからね」
「受け取った翌日には、すぐに法皇神殿へうかがったよ」
それはそれは、とキュクロプスは揉み手をする勢いだったが、ふと眼つきを冷ややかに戻した。
「でも、お二人揃って『法皇にはなりません』とは言わなかったんですね?」
それはその、とアイオロスは苦笑いした。
「さすがに一介の騎士が、法皇様の人事に意見するわけには」
「すべては法皇様の御心次第だよ」
腰に手を当て、やれやれといった風のキュクロプスは、神騎士ともあろう御方が意気地のない事を、などとぶつぶつこぼしていたが、とりとめのない言葉の中から鋭い矢を放ってきた。
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