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第九章・14
「訓練後、お二人は教皇の間へ来るように、とのお言いつけです。内示を出す、と」
一瞬にして、場の空気が凍りついた心地をギルは味わった。
法皇にルキアノスと共に呼ばれての内示といえば、決まっている。
だが、確認せずにはいられなかった。
「内示、って。もしかして、次期法皇の、かな?」
穏やかに、何でもないかのように振る舞えば振る舞うほど、声が上ずっていくのが自分でも解かる。
しかしキュクロプスはもう興味がありませんよ、といった口調でさっさと自分の荷物を抱えてモニタールームから出て行ってしまうのだ。
「多分、そうでしょうね」
後に残されたルキアノスは、ギルの方を窺った。
(ギル、少し顔色が悪いな)
飛行船での一件は、忘れようがない。
あのプライドの高いギルが、俺に情けを乞うたのだ。法皇の座を譲ってほしい、と。
恥も外聞もなく、俺の言いなりになって。
(やけにまた急に。心の整理が、まだついていないのに)
もし俺が。
このルキアノスが法皇に選ばれた時、ギルに譲ると言うのか? 言えるのか?
「ギル。とにかく法皇の間へ行こう。確かに辞令が下りる前には、内示がある。俺もうっかりしていたよ」
「……ああ」
訓練で流した汗をシャワーで落し、内勤用の制服を身に付けた。
シャツは朝に着たものではなく、クリーニングから帰って来たばかりのプレスの利いた方を選んだ。
「行くか」
「行こう」
そして、二人とも一言も話さず法皇神殿へのダイレクトルートを進んだ。
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