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第九章・17
法皇の間では、ルキアノスが手渡されたファタルの予言書の重さを味わっていた。
何もかもがデジタル化、オート化されたこの時代、古びた革の手触りや紙一枚の香りすら珍しい。
それだけ厳重に、丁重に受け継がれてきたものなのだ。
「この予言書、正式に法皇となるまで眼を通す事は許されておらぬが、ただ一度だけ開く事が出来る」
「一度だけ、ですか」
「そしてそこに書かれた道に、新法皇は殉ずる」
何から何まで因縁めいた、オカルトの匂いさえ漂ってきそうな話だ、とルキアノスはその時すでに自分を取り戻していた。
ただ、現法皇や歴代の聖職者たちへの敬意は持っていたので、そこは言うとおりに任意のページを繰った。
『13年後、ファタルを守る真の騎士たちが現れる』
「……これはどういった意味でしょうか」
「残念ながら、私はそれを読むことは許されていない。お前が自分で答えを求めなさい」
13年後だなんて、随分とまた先の事だ、とルキアノスはすぐに考えることを止めた。
これは一旦保留。
新法皇として正式に予言書を手にする事ができるようになってから、前後の文を読めばいい。
その程度しか考えなかった。
この時は。
時の歯車と共に、運命の輪がまたひとつ大きく動いた。
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