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第十章・5
湯を浴びながらギルは、湧き上がる活力を感じていた。
事後は気だるく、体が重いことが常なのだが。
この妙な覚醒感はジーグのおかげだな、とも思った。
シャワーを終えたら、あとはジーグと眠ってしまうつもりだったのだ。
しかし興奮状態に近いギルは、この一夜のうちにもう一つやる事がある、と思いついた。
寝室をそっと覗くと、ジーグが穏やかに眠っている。彼を起こさないよう気をつけながら脱ぎ捨てた制服をかき集め、身につけた。
そして、外へと出かけて行った。
「ルキアノスに会っておかなくては。今日の内に」
したたかな打算を胸に、ギルはルキアノスの住まいを訪れた。
夜はさほど更けてはいなかったため、彼は起きていた。
薄暗がりの中、ジーグは眼を開けた。ぱっちりと。
彼は、起きていたのだ。ギルがバスルームから出て、身支度を整える間も、ずっと。
そして、兄は出かけた。
「ルキアノスの所、だよな」
そう物憂げに、しかし煮えくり返るはらわた。だが今は、奴の事など考えている暇はない。
「ギル、俺はもっとダイレクトにいかせてもらうぞ」
ジーグも起き出し、仕度を整えた。
その中には、複数枚の偽造IDカードがある。
聖地のメインセンター内はもちろん、12神殿、そして法皇の間までロックを解除してまわった過去があるジーグだ。
中でも最重要機密の場所へと、今夜これから乗り込むつもりだった。
「待っててくれよ、法皇様」
ジーグは不敵に笑うと、夜の闇に消えた。
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