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第十章・6

 ギルの訪問に、ルキアノスは驚いた。  何せ先ほど、次期法皇が自分に決定したのだ。あれほど法皇の座を欲していたギルを差し置いて、だ。  どんな顔をして会えばいいのか迷ったし、どんな話をしたらいいのか戸惑った。  だが意外な事に、会話のリードをとってきたのはギルだった。 「まずは、おめでとう。すまなかったな、さっきは言えなかった」 「あ、ありがとう」  よかった。  ギルは、俺が法皇になることを認めてくれている。  ルキアノスは、胸を撫で下ろした。 「でも、私だって法皇の座に就きたかった」 「ギル……」  そこでギルは、ネクタイを弛めた。しゅるんと解いてしまい、ジャケットも脱いでそのまま床に落とした。シャツに手を懸け、ボタンを順に外してゆく。 「ギル?」 「抱いてくれ、ルキアノス」  次期法皇候補に抱かれたい、とギルは微笑む。まだ『候補』という言葉を付けたまま。 「君が法皇に就任するまで、まだ日がある。それまでに、私を」 「ギル、もう何も言うな」  ルキアノスは、よく回るギルの口を、自らの口で塞いだ。大きくゆったりと、包み込むようなキス。 (随分と余裕だな、ルキアノス)  法皇様に賜った、次期法皇の座。すでにその玉座に座ったつもりでいるのか。  撫でまわすようなキスを終えたルキアノスは、ギルの眼をじっと見つめてくる。ギルはその眼を逸らさず、小さな声で呟いた。 「私はまだ、諦めてはいない」  困惑したルキアノスは、笑いで誤魔化した。  息を吐き出し、くしゃりと顔を歪めて、子どもをあやすようにギルの髪を撫でた。 「お祝いに来てくれたんじゃないのかい?」 「それもそうだ」  ギルもまたルキアノスに負けじと、笑いで場の空気を撹拌した。ともすれば、刺々しくなりそうな二人の間を誤魔化した。

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