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第十章・9

 ジーグの件は任せてほしい。  彼もギルの双子の弟として、表に出られるような方法を考えるから!  次期法皇に選ばれたその時、確かにルキアノスはそう念じていた。  しかし、そんな彼の心の声は、誰にも届いていなかった。  ギルにも、そしてジーグにも。 「ルキアノス……、いつか消してやる」  こうしている間にも、ギルは奴の腕の中で責めさいなまれているはず。  それを思うと、心がささくれ立つ。  夜勤の人間のふりをして偽造カードで次々とロックを解除し、聖地の奥へ奥へと進むジーグは、そんな物騒なことを考えていた。  目指すは法皇の間。  そこに法皇が居るという確証は、ない。もう夜も更けた。寝所へ移動している可能性の方が高い。  ジーグは、それならそれで構わない、と考えていた。  ギルとの記憶の共有で見知っている、聖なる場所。そこに踏み込み、土足で荒らしてやろうと企んでいたのだ。  ギルを法皇に選ばねば、貴様を殺す。  そんな脅迫を残してやろう、と。 「まぁ、本人が居ればそれに越したことは無いが」  最終ロックを外し、ジーグはそっと法皇の間へと続く回廊を歩いた。この先には、確か衛兵が交代で寝ずの番をしているはず。  しかし奇妙な事に、ジーグは誰にも会うことは無かった。この扉を開けば、後は聖所だというところまで進んでも、だ。 「衛兵は廃止になったのかな?」  今度、ギルに訊いてみよう、と軽く考え、ジーグは最新鋭のテクノロジーに頼らない、クラシックな扉を開けた。両開きの重厚なドアだが、意外に力はいらなかった。 「よく来たな、ジーグ」  突然名を呼ばれ、ジーグはどきりと歩みを止めた。この声は。  眼を向けると果たしてそこには、最高位の聖職者が。法皇が静かに立っていた。  法皇のデータは、全てギルを経由して知っている。声色も、外見も、匂いも。  そして彼に対しては、畏怖と同時に不思議と安らぎに似た心地も感じているのだ。    ギルは、心底法皇を敬愛していた。  つい最近までギルの代替品として生きてきたジーグの脳にも、それは散々刷り込まれてきたのだ。ギル同様の意識を持っていても、致し方なかった。

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