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第十章・12

 白金に輝く短剣。  床からそれを素早く拾い上げると、怒りにまかせてリーエンを深々と刺した。 「……」 「忌々しいな。『双子が法皇を殺す』予言通りだ」  ジーグはそう言って、短剣を刺したまま捻った。こうして人体に空気を入れれば、声も立てずに死んでゆくのだ。  しかしリーエンは最期に言った。 「……それでいい」 「運命に殉ずるか、リーエン法皇!」  どこまでも高潔な態度は、まさしく法皇を名乗るにふさわしい。  リーエンが眩しい光とすれば、この俺はその光によって落とされる影。  息苦しいほどの愛と憎悪でもって、ジーグは法皇を殺害した。 「遺体があるとまずいな」  リーエンの遺体は、亜空間へと転送した。  残されたのは、法皇として君臨するために必要なアイテムだけだ。  ジーグは一つひとつを確認しながら、それらを身に付けていった。ローブ、装飾品、そして聖なる仮面。 「予言書だけは、リーエンが持って行ってしまったな」  しかしジーグはにやりと笑うと、仮面を着けた。有機メタルの鉤爪が顔に食い込み、仮面とジーグを一体化させた。 「それでいい」  リーエンの言葉を真似て発した声は、ジーグではなく『教皇』の色で響いた。  

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