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第十章・13

 ファタルが現世に降臨されてから、様々な準備が同時進行で行われていた。  女神御自身を、群集の前にお披露目するセレモニー。法皇退位の儀式。そして、新法皇の戴冠式。  大勢の人間が、それらを演出し、つつがなく終える為に忙しく働いていた。  しかしそんな中、疑問を抱える者がいた。  ザンの神騎士・ギル。 「ジーグときたら、一体どこをうろついているのやら」  はぁ、と溜息をついた。  ルキアノスが新法皇に選ばれた夜から、行方知れずとなっているのだ。とは言うものの、3日程度なのだが。  まあ以前も外出したきり戻って来ないことは何度かあったし、長くても1週間で帰ってきた。  それに、こんなショートメールが毎日届く。 『元気だ。心配するな』  どこで元気なのかを知らせてほしいのだが、こちらからの問いかけには一切返事を寄越さないのだ。 「早く帰って来てくれ」  一番傍に居て欲しい時に、居ないなんて。  今日もまた唇を噛み、新法皇の内示の下りたルキアノスと共に勤務する。  いや、この日は唇を噛む事など忘れる出来事が彼を待っていた。  タンの神騎士・ルキアノス 「あれはもしや、夢だったんじゃないか?」  先だって、法皇様から賜った次期法皇の座。内示なので、ギルと自分と法皇様しか知らない極秘事項だ。  しかし極秘である間はほんのわずかなはず。戴冠式の準備もあるので、すぐに正式に発表されてリハーサルに入るはず。  だのにあの日以来、法皇様の御姿を見る事すら叶わない。正式発表の気配もない。 「お体の具合がよろしくない、とか……?」  それはそれで心配だ。見舞いにかこつけて、探りを入れてみようか。 「やはり新法皇はギルにしたよ、とか言われたりして」  他愛のない冗談を自分で自分に放っては不安を紛らすルキアノスは、その日冗談などいえない出来事を迎える。  ファタル降臨を祝う、セレモニーが行われる日である。  その日、なじみの天才技師キュクロプスは、疑問と不安を胸にルキアノスの腕を引いたのだ。  煌びやかな降臨の儀式を終えた、その足で。

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