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第十章・17
法皇職は意外と重労働だ、とジーグはうそぶく。
まるでいたずら小僧の様に笑って。屈託なく、笑顔で。
「なにせ紙の文書まで回って来るんだ。ペンを持つ、なんて久しぶりだよ」
「どうして……」
どうしてお前が法皇に、との全部を口にする事が、ギルにはできなかった。
短い言葉を振り絞り、眼を見開いたまま弟の返答を待った。ギルのオーラの乱れに甲冑が呼応し、ちりちりと響いていた。
「俺が法皇として、ギルを次の法皇に任命するよ。これで願いが叶うんだ、ギル」
「……お前はどうするんだ?」
さぁて、ね、と。どこまでものんびりと応対するジーグだ。
平常心でふざけている、というよりは、わざとそうやって事の重大さから逃れているように、ギルには見えた。
「存在を明るみにして、ギルの代わりにザンの神騎士になってもいい。もちろんお前がそうしてくれるなら、ね」
「……」
それこそが、ギルが望んだ最良の道だった。自分が法皇に。そしてジーグがザンの神騎士に。
これまでは、ルキアノスの鼻を明かしてやりたい一心で法皇の座を欲していた。
だがジーグが現れてから、彼を愛するようになってからは、明確な目標ができたのだ。
そして今、願いが叶う最大のチャンスが訪れている。だがしかし。
「ジーグ……。法皇様は……? リーエン様はどこへ?」
「殺した。俺が」
ギルは、声にならない声を上げた。
胸に手を当て、激しく一つ叩いた。震えが来る。吐き気がする。
「お前は、自分がどれほどの大罪を犯したか、解かっているのか!?」
「解かってるさ! だからギル、お前を法皇にした後は、聖地から消えてもいい。整形して顔を変え、どこへなりと出ていくさ!」
悪い夢を見ているようだ、とギルはもう何も聞こえなく、眼に映らなくなりそうだった。
激しい耳鳴りと大きな眩暈は、しばらくの間続きそうだ。
「ギル、どこへ行く」
「……」
返事をせず、ギルは教皇の間から退出した。
紙のように白く血の気を失った顔を見て衛兵が言葉をかけたが、やはりギルは返事をせず、のろのろと回廊を歩き始めた。
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